美味しい時間
翌週いつもより早い時間に会社に着くと、課長がいないのを確かめてから、
主任の席に急いだ。毎日と言っていいほど早朝出勤している主任は、案の定
定位置で仕事を始めている。
「主任、おはようございます」
「あら、藤野さん。今日は早いわね」
そんなに忙しいのか、ちらっと顔を見ただけで、すぐに目線を書類へと戻し
てしまった。そしてそのままの姿勢で話を続けた。
「何か用?」
「あっ、はい。これを受け取っていただきたくて」
主任のデスクに、そっと辞表を置いた。
それを手にすると、主任は驚いた顔で私を振り返った。
「どうして? 今仕事も順調なのに」
「一身上の都合としか、お答えできません」
そう言って頭を下げると、小さく溜息が聞こえた。
「そう……。とにかく、私の一存で返事できることじゃないから。東堂課長が
こちらに戻ってきてから話をしましょう」
「は、はい。失礼します」
主任が辞表を引き出しにしまうと、私もその場から離れた。