美味しい時間
「先輩も知っての通り、私は料理をするのも食べるのも大好きでしょ。だから、
ここのシェフの料理にはすっごく興味があったんですよ。もう美和先輩、大
好きっ!」
多くの人が行き交う場所で、なりふり構わず抱きつくと、美和先輩はやれやれと
いった顔で私を身体から引き離した。
「そういうことは好きな人にやってよね。まぁ悪い気分はしないけど……」
ぼそっと呟くと、少し赤い顔をして横を向いてしまう。
そんな先輩が可愛いなと思いながら、手を取り歩き出した。
「私はあんたの彼氏じゃないんだからねっ」
私に引っ張られながらそう言う先輩に「はいはい」と答えると、諦めたかのよう
に溜息をつき、素直に歩き出してくれた。
待ち合わせ場所からホテルまでは大した距離がなかったからか、私の気が急いて
いて早歩きになっていたからか、あっという間に到着してしまった。
さすがに有名ホテルだけあって、佇まいに圧倒されてしまう。
急いで支度した割には、それなりにお洒落な格好をしてきていたことにホっとし
ていると、少し離れた所から美和先輩に呼ばれた。
「百花、そんなとこに突っ立ってないで早く行くよ」
「はーいっ」
返事をしながら小走りに歩み寄ると、頭を小突かれた。