美味しい時間

その言葉にカチンと来たのか、美和先輩が声を荒げる。

「はぁ!? 今さら待ち伏せなんかしてどうなるってんの。バカじゃない?」

「美和先輩……」

顔を上げ倉橋さんの顔を見ると、わなわなと引きつりながらも笑顔は崩していな
かった。小さく息を吐くともう一度きちんと2人に向き直った。否でももう一人
の顔が……東堂課長の顔が目に入ってしまう。
昨日の今日で、まさかお見合い当日に会ってしまうとは……。
さっきまでの幸せな気分はどこかへ行ってしまい、不幸のどん底に落とされたよ
うな気分だ。
今腕を組んで一緒にいるということは、お見合いはうまくいったのだろうか。
重たい気持ちのまま、なるべく課長とは目を合わせないように、目線を下げ気味
に話しだす。

「すみません。こちらのレストランでランチをしてたので……。偶然とは言え、
 申し訳ありませんでした」

「ほ~んと、こんなおめでたい日にあなたには会いたくなかったわ。ねぇ、慶太
 郎さん」

自然に寄り添う姿を見て、胸が締め付けられ酷く痛む。

< 227 / 314 >

この作品をシェア

pagetop