美味しい時間
肩をわなわなと震わせて、すごい剣幕で食ってかかる。
「どういう事? 意味が分からない。二人して私のことをコケにしておいて、
何の処罰もないっていうのっ!!!」
「冴子っ、何度言ったらわかるんだ。自分のしたことを、胸に手を当てて
よく考えてみなさい」
窘めるような、しかし有無も言わせないその言葉に、倉橋さんがフラフラと
力なく一歩下がる。その顔は悔しさからなのか、唇を噛み締めていた。
「人の気持ちは、地位やお金では買えないんだ。そんなことも分からないような
馬鹿じゃないだろう、おまえは」
そこまで言われるとさすがの彼女も諦めたのか、肩で大きく息をしてから黙って
フロアから出ていった。
それと同時に、今まで事の成りゆきを固唾を飲んで見守っていたフロア中の社員
達が、一斉にほっと肩をなでおろすのが分かった。
私自身もかなり緊張していたみたいだった。倉橋さんの姿が見えなくなると、頬
の痛みと口の中の痛みが一気に襲ってきた。
「い、痛い……」
小さな声で呟いたつもりだったのに、課長が心配そうに私の顔を覗きこみ、頬を
さすっていた手に自分の手を重ね合わせてきた。一瞬そのまま身体をその手に
委ねてしまいそうになってしまった。ここが会社だということに気づくと、慌て
て課長から身体を離した。