美味しい時間
こ、こ、こ、ここで塞ぐ~っ!?
それはもっと遠慮したい……。
しょうがなく黙って大人しく抱かれていると、私の様子に満足したのか、さっき
までのクールな顔を崩して、優しく微笑んでくれた。
こんな状態だというのに、胸がきゅんとしてドキドキが止まらない。真っ赤にな
っているだろう顔を両手で隠すと、課長がバランスを崩しそうになった。
「ちゃんと掴まれ」
顔から手を離し課長の顔を見ると、首を動かし「ここに掴まれ」とジェスチャー
で伝えてきた。その通りに首に腕を回すと、今まで以上に強く抱き抱えられてしまった。
「じゃあ東堂くん、藤野くんを頼んだぞ」
「はいっ」
私を頼む? うん? どういう意味?
あっ……病院に連れていくのを頼むってことだよね。
あはははっ。私って、何勘違いしてるんだか……。
課長の腕の中でもぞもぞとしていると、じっとしてろと窘められた。
専務が4階の自室に戻っていくと、課長は私を抱きかかえたままフロアを見渡し
た。う~ん……。みんなの視線が痛いです。
そんな私の気持ちを察してか、そっと下ろしてくれた。
「朝から騒がして申し訳なかった」
深々と頭を下げる姿を見て、私も一緒に頭を下げた。
すると聞き慣れた声が響いた。
「課長が悪いわけじゃないじゃないですか。百花~、良かったね」
顔を上げると、美和先輩が手を振っていた。美和先輩の満面の笑みを見てホっと
したのか、涙が出てきてしまった。