美味しい時間

頬が痛くて上手く笑えない顔を何とか笑顔にすると、泣き笑いの顔で手を振り
返す。

「主任、若月、今日は頼むな」

「了解ですっ」

美和先輩はガッツポーズで応えてくれたけど、主任は呆れたように手を振って
いた。課長はバツが悪そうに頭を掻くと、私の方を振り向く。そしてまた、あの
背すじも凍りそうな笑顔を見せると、私が言葉を発する間もなくいとも簡単に
抱き上げてしまった。

「じゃっ、後はよろしく!」

後はよろしくって……。私の立場はどうなるんですか……。
課長には似つかわしくない声なんて出しちゃって。今更、爽やかさを見せても
遅いんじゃないんですかっ。
心の中で毒づいてもしょうがないんだけど……。

「課長、百花、お幸せに~」

「おうっ!!!」

もうダメだ。今の課長には何を言っても無駄みたい。
美和先輩も美和先輩だよ……。
そして、お姫様抱っこをされたままフロアを後にすると、課長の背中の後ろから
わあ~っと大歓声があがった。
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