美味しい時間

「俺達、祝福されてるなぁ」

何を呑気に言ってるんだか……。
はぁ~と大きく溜息をつくと、歩くのを止めて鋭い目を向けてきた。

「何? 嬉しくないの?」

いきなり不機嫌ですか……。そんな目をしたってダメなんだから。
問に答えないでいると、今度は課長が大袈裟すぎるほど大きな溜息をついた。

「ふ~ん、嬉しくないわけだ。はあ~っ。俺も嫌われたもんだな」

あぁぁぁ、いちいち面倒くさい。

「嬉しくないとも嫌いとも言ってないじゃないですか。何なんです? 子供みた
 いに拗ねちゃって。私、まだ今の状況がちゃんと理解できてないんですけど」

そうだ。倉橋さんに打たれたことも、専務の態度も、今こうやってお姫様抱っこ
で運ばれていることも……。
ほらっ。就業時間はとっくに過ぎてるからロビーまでは誰にも会うことなくこれ
たけど、受付の子達、私たちを見てビックリしてるじゃないの。

「痛いのは頬なんで歩けますから、いいかけん下ろしてくれませんか?」

「嫌だ」

もう、どうしたって言うんだろう。こんなの課長らしくない。
結局そのままの格好で地下駐車場まで連れて行かれ、ピッと鍵を開けたかと思う
と、助手席じゃなく後部座席に押し込まれてしまった。
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