美味しい時間

「い、痛いっ……」

倉橋さんに打たれた時に切った場所に課長の舌が当たったのか、急に口の中に
痛みが走った。課長がハッとしたように唇を離す。

「悪い。止められなかった」

「ど、どうしたんですか? なんか課長らしくないというか……」

「おまえ、俺のこと買いかぶり過ぎ。俺だって普通の男なの。我慢の限界。
 ずっとお前に触れたかったし、こうしてキス……したかった」

今度はチュッと唇が触れるだけのキスをすると、ふわっと優しく抱きしめられ
た。久しぶりの課長の感触と匂いに、自然に心が落ち着いていくのが分かる。
胸に頬を当てて少し甘えてみると、課長が大きな溜息を零した。

「おまえなぁ……そんなに煽るな。ここでって訳にはいかないだろ」

ここでって? 何を?
課長の目をポワンと見つめ、首を傾げた。

「はぁ……。天然って言うのは、時には罪だな。病院行くぞ、病院」

「あの、その病院ですけど……。行かなくて大丈夫です。打たれただけですし」

車に押し込まれた時に乱れた服を整えながらそう言うと、課長は眉間に皺を
寄せた。
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