美味しい時間
「後で覚えておけよ」
「うっ……」
課長の後ろに黒いオーラが見え隠れしてるんですけど……。
私がシュンっと肩を落とすと、軽快に笑い出した。
「そんなに心配するな。お前が嫌がることはしない。喜ぶことをしてやるから
安心してろ」
「喜ぶことってっ!!」
それじゃあ私が課長に抱かれるのを、楽しみにしてるみたいじゃないっ。
身体が勝手に火照ってきてしまった。恨みがましく課長を見ると、スッと腕が
伸びてきて指先が頬を撫でた。身体がピクンと跳ねる。
「ごめん、痛かったか? 早く帰って冷やさないとな」
頬を撫でていた手をハンドルに戻すと、車を走らせた。
倉橋さんに打たれた頬が痛かったから、身体が跳ねたわけじゃないのに……。
そっと課長の横顔を見てみると、何だか薄っすらと笑ってる?
もしかしたら私がどうしてピクンと反応したのか分かってて、わざと緊張しない
ようにああ言ってくれたとか?
「何? そんなに俺のこと見つめて、何か期待してる?」
前言撤回っ!!!
「き、期待なんかしてませんっ!」
頬をふくらませ怒ってみせた。
「い、痛~い……」
頬を擦る。
「バ~カッ」
またも車内に課長の笑い声が響いた。