美味しい時間
会社までは、徒歩で通っている。
普通に歩けば20~30分の距離だけど、今日はそんな悠長なことをしてられない。小走り気味に歩きながら、会社をめざす。
すると後ろから、「ププッ」っとクラクションの音がした。
振り向かず道の縁に移動すると、その音を鳴らしたであろう車が私の歩調に合わせて車を走らせ始めた。
窓がゆっくりと下がっていく。
「おいっ藤野、おはよう」
げっ……。東堂課長だ。
私、実は彼のこと……大っ嫌いなんだよね。
でもここは、ちゃんとあいさつしておかないと、後で何言われるか分かったもんじゃない。
顔を課長用のスマイルにして、丁寧にあいさつをする。