美味しい時間
後部座席に置いてある荷物を取りバッグを手に持つと、もう一度お礼をして車から降りようとドアに手をかけた。
「百花」
私の名前を呼びながら、肩に手をのせる。
心臓がドクンと大きく跳ねた。
何も話してくれない課長に、だんだんと不安が広がる。
私が首を傾げると小さく笑ってから肩にのせていた手を、そっと頬に移動させた。
指先が触れているところが、くすぐったいような、恥ずかしいような……。
何とも言えない気分になっていく。
「お前の反応は楽しいな」
「け、慶太郎さん。からかってるんですか?」
「違うよ。こらから、お前の女としての成長が楽しみだ」
意味不明……。
まったく、今日の課長は何を考えているのか分からない。
触れられている頬が熱いんだけど……。
きっと睨みつけると、少し照れたようにその手を離す。
「じゃあ明日。弁当、楽しみにしてる」
「はい。楽しみにしてて下さい」
車から降りるとペコリと頭を下げた。
「早く寝ろよ。おやすみ、百花」
「おやすみなさい」
ドアを閉める。
課長は手を振りながら帰っていった。
車が見えなくなるまで見送ると、自分の部屋へと向かった。