美味しい時間

「遅い。待ちくたびれた」

優しく甘えたような声を出し、耳元に唇を当てて囁かれ、不思議な気分になる。
ギュッと抱きしめられたままの状態に、訳が分からず頭がクラクラする。

「あ、あの課長? 苦しいんですけど……」

「そう? こうやって抱かれてると気持ちいいだろ」

気持ちいいっ!? そんな事考える余裕ないよぉ~。
で、でも何か答えなきゃね。
えっと、えっと……。

「ドキドキ……します」

わぁぁぁぁっ!!
本当のこと口走ってどうするの、私っ。
それも大嫌いな課長の腕の中にいるんだよ。こんな気持ちになっちゃうことが信じられない……。
こんな経験もないし、どうしたらいいの?
ひとり腕の中でモジモジしていると、ゆっくり身体が離された。

「そっか、ドキドキしたんだ。素直でよろしい」

そう言ってニコッと笑い私の頭に手を乗せると、くしゃくしゃと少し乱暴に撫でた。
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