美味しい時間

うん、我ながら上出来だ。

料理好きな私としては、お弁当だからといって手は抜かない。
だから自信がなかったわけじゃないけれど、今朝は何となくいつもの調子が出なくてね。
課長が食べるんだと思うと、緊張してしまって……。

課長のお弁当箱が気になり、チロッと覗いてみると、大好きだと言っていた甘い卵焼きが一口も食べないで残っていた。

「あれ? 課長。卵焼き、大好きだったんじゃないんですか?」

「おぉ、大好きだよ」

「じゃあ何で一口も食べてないんですか?」

見た目が良くない? 綺麗に焼けたと思うんだけどなぁ……。
少しだけしゅんっとして肩を落としていると、ちょっと話しづらそうに課長が語りだした。

「絶対に笑うなよ」

念を押された。きっと笑えることなんだ。そんな事を言うから、もう笑いそうだ。

「俺、酒も飲むけど甘いもんも大好きでさ。出来れば食後には、甘いデザートが食いたいんだよね。で、卵焼き。これデザート代わり」

プッと吹き出して笑ってしまった。
そっか、課長甘いデザート好きなんだっ。

「課長って、ほんと子供みたいですね」

もう我慢できなくて言ってしまった。
すると、真剣な顔をして私をじっと見つめる。

「笑うなって言ったよな。じゃあ子供の時間はこれまでだ」

そう言って席を立ち、私にじわじわと近づいてきた。
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