美味しい時間

えっ? 怒らせた?
いやいや、あれだけのことで怒るなんて大人気ないでしょっ。
あっそうか。課長、子供っぽいんだもんね。

そんな呑気なことを考えている間に課長は、すぐ目の前にまで来ていた。
その距離の近さに驚き、慌てて後ろに下がろうとして椅子から転けそうになる。

「おっと危ないっ」

課長の腕が私の腰をサッと抱き、それを止めてくれた。

「あ、ありがとうございます」

そう言って離れようとしたら、逆にギュッと強引に腰を抱き寄せれらてしまう。
課長の手が腰をさするように、上へ下へと動き出す。
指先が動く度に、くすぐったいような恥ずかしいような、何とも言えない気分になっていく。

片方の手が腰から離れ、ゆっくりと身体のラインをなぞるように上へと上がってくるのがわかった。
固く目を閉じると、その手が優しく私の頬を包み込む。
再び目を開けると、熱い眼差しで私を見つめていた。
思わず鼓動が早くなる。

「子供じゃないこと、教えてやる」

その言葉を聞いて、背筋がぶるっと震えた。
< 56 / 314 >

この作品をシェア

pagetop