美味しい時間
ダミーの資料を持ってフロアに二人で戻る。
すぐさま行動を起こす課長。その手際良さには頭が下がる。
さすがは課長。有言実行とはこういうことを言うんだろう。
取引先まで、すぐに重要書類を届けるという任務を私が任される。
時間が無いから駅まで課長が送る。
そしてそのまま私は会社に戻らず直帰で構わない。
というのが課長のシナリオ。これなら一緒に出ていっても、誰も勘ぐる人はいないだろうと……。
お姉様たちの視線はきっと痛いだろうけど、それも一瞬のこと。
美和先輩だけには簡単に書いたメモを渡しかばんを持つと、熱が上がってきたのか辛い身体に鞭打って、会社の正面玄関まで急いだ。
玄関に着くと、課長が車から降りて助手席側で待っていてくれた。
「乗って」
私の荷物を取り上げると、すっと手を引き助手席に座らせる。
自分も運転席に乗り込むと、早々に車を走らせ会社から離れた。
「急がせて悪かったな」
「いえ、ありがとうございました」
もう身体が限界に近かった。あの時課長が気がついてくれてなかったら、今頃きっと回りに迷惑をかけていたことだろう。
身体をドアにもたれ掛かってグッタリしていると、課長の腕がのびてくるのが見えた。