美味しい時間

肩に手を置かれクイッと力を入れたかと思うと、身体がゆっくりと傾いていく。そのまま課長に膝枕してもらう格好になってしまった。
この位置、微妙に恥ずかしいんだけど……。カチコチに固まっていると、頭をさわさわと撫で始めた。

「このほうが身体が楽だろう」

いえいえ……。全然楽じゃありませんよ、課長。
熱、また上がっちゃってるね。違う意味でだけど……。

「課長。家すぐだし、まだ座ってられるから……」

大丈夫ですって言おうとしたら、唇に人差し指が当てられた。

「俺がこうしたいの。それに、何で課長? 二人でいるときは?」

「慶太郎さん……」

「間違えんなよ」

うはぁ~、なんて言う上から目線。なのにそう言われて嬉しい私って……。
M要素たっぷりなんじゃないかしら、まったく。

歩いて20分の距離は、車であっという間だった。
アパートの前に車を停めると、すぐに車を降り助手席側にまわってきた。
先に後部座席に置いてあった荷物を取り、次に私を抱きかかえる。

「部屋まで送ってく」

そのまま私を連れていこうとする課長を引き止める。

「ここでいいです。慶太郎さんは早く会社に戻って下さい」

あまりゆっくりしていて帰りが遅くなると、お姉様あたりが勘ぐるかもしれない。

「ホントに大丈夫ですから」

そう言うと「そうか……」とちょっと悲しい顔をする。
でもすぐいつもの顔に戻すと、とんでもないことを言い出した。

「仕事終わったらすぐ来るよ。今日はお前んちに泊まるわ」



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