美味しい時間
「慶太郎さん、痛いっ」
弾かれたところを摩っていると、体温計が口に当てられた。
「早く」
……はい、分かりました。諦めて口を開く。
慣れない事ばかり強要してくるんだもん……。いきなりじゃどんな反応していいのか困っちゃう。
体温を計りながら、肩が触れ合うほど近くにいる課長をそっと見上げる。
「はぁ……。そんな顔して。俺を誘惑してるとか?」
「な、何言ってるんですかっ!」
「自然にその顔かよ。反則だぞ、それ」
反則? 別にそんなつもりじゃなかったんだけど。
意味が分からずきょとんとしていると、少しだけ困ったような顔をした。
「会社で俺がどれだけ我慢してたか……。分かるか?」
何が? 分かんないよっ!!
「お前の笑顔見る度、力ずくでも俺のものにしたいっていう衝動を抑えるのに、どれだけ苦労したと思う」
「そんなの分かんないですよっ。いつも仕事をどっさり与えられるだけなけなのに……」
分かるはずない。私には優しい笑顔を見せてくれなかったんだから……。