その両手の有意義な使い方
傍に立った文佳を見上げ高遠が、にこにこ笑う。

尻尾をパタパタちぎれんばかりに振るワンコ。
そんな表情を見るのが、確かに文佳は好きだった。

いや―いまでも好きだ。
いま、文佳好き好きオーラを放ちまくっている高遠が、嫌いじゃない。

―いま、この瞬間は。

「フミさん、二限は? 昼メシ、一緒にできる?」

いつも通りの、だけど、文佳が逃げたかった問答が、今日も繰り返される。

「二限は入ってる。お昼は…」

「あたしたちと食べるんだよね、フミちゃんは」

さっと、横合いから腕を絡められる。
ぎょっとして見れば、右腕にぶら下がっているのは、穂波。

「フミカ、レポートが一緒だから、ちょっと貸りるよ」

ばさっと宣言して、あやせは子馬鹿にした笑いを浮かべる。

「一日くらい別行動したって、バチは当たらないわよ」

高遠は、強気なあやせが実は苦手。
いまも、だいぶ腰引け気味で、苦笑いをしている。

一方、文佳は、本人を無視して進んでいく会話に、ほっとしていた。

「じゃあ、高遠。…ごめん」

右腕を穂波に取られ、左手をあやせに引っ張られた状態で、文佳は指先だけでひらひら手を振ってみせる。

机に取り残された高遠は、ひどく寂しげな風情。

その姿に文佳は、自分で穴を掘って深く深く埋めてしまいたいような後悔に襲われた。
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