その両手の有意義な使い方
―『嘘は一日一回まで』

文佳の、奇妙な自分ルールのひとつ。

いくつも嘘をつくと、自分がまるでただの嘘つきに成り下がったように思える。

逆に、なにひとつ嘘をつかずに生きていけるほど、文佳は潔い人間でもない。

だから、一日ひとつだけ、文佳は自分に嘘を許す。

今日の嘘は、もう品切れだった。

「フミさん、偶然!」

そう云えば、以前この店に高遠を連れてきたことがあった。

意外にも人込みが嫌いな高遠は、すぐにこの店を気に入った。

「あやせさん、文佳さん、もう借りても好い?」

高遠はまず、天敵・あやせにお伺いをたてる。

―なんであやせが先なのよ!

なんだか、文佳はむっとした。

「文佳次第よね」

しらっとしたあやせに、苦笑した穂波。

文佳はしぶしぶ立ち上がった。

財布の小銭を適当に掴み出し、数えもせずテーブルに置く。

「行くよ、高遠」

高遠が笑う。

それを見るとやっぱり、嬉しい。
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