その両手の有意義な使い方
―嫌われたくない。

好きと断言できないくせに、高遠のトゲに必要以上に文佳は傷付いた。

純粋な好意だけの人間なんて気持ち悪い。

そうわかっているのに、高遠だけは好きと繰り返すばかりのバカな犬であってほしい。

―バカは文佳の方だ。

「文佳さん」

マグカップの中身を一気に飲み干し、高遠がじり、と距離をつめてくる。

びくついて強張る身体。

ぎり、とかみしめた奥歯。

文佳は緊張に堪え切れなくなる前に、高遠の進軍は止まる。

こぶしひとつぶんの隙間を挟んで、高遠が文佳に向かい合った。

< 24 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop