その両手の有意義な使い方
まず最初に、ふわっと身体が浮いた。

続いてすぐ、重力が物凄い勢いで文佳の足を階段の下へ引き摺り落とす。

―階段を踏み外したんだ。

そこでやっと、気付いた。

「きゃあッ!」

マヌケな自分の悲鳴さえ、階段のうえに置き去りに。
したたかに背中を段差に打ちつけながら、文佳は階段を落ちていく。

最後にまた、ひときわ強く背中を打ち、身体が跳ねる。

「フミさん!」

そこで、なにかが文佳の身体を受け止めた。

少しだけ手応えのある硬いなにかは、そのまま文佳を抱き止めながら階段を転げ、最後に踊り場の壁にぶつかって止まる。

一瞬、気を失っていたのかもしれない。

「ん…ッ」

無意識に身じろぎをして、文佳は強烈な背中の痛みに呻いた。

「いた……」

身体を丸めて、痛みをやり過ごす。
自分が手を付いている床がやけに、暖かいような気がして――正気に返った。

「高遠!」

ぱっと、身をひるがえす。

高遠が、文佳の下敷きになって、踊り場に伸びていた。
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