その両手の有意義な使い方
文佳の思案顔に、あやせはぎょっとのぞけった。

「ちょっと、やめてよ。あんたは高遠くんを好きだってことにしておいて! これ以上話を複雑にすんな!」

「あやせちゃん、声が大きい!」

きゃんきゃん喚くあやせを、穂波が慌ててなだめる。

文佳はむくれて、呟いた。

「やさしくなーい」

「贅沢者に垂れる優しさはない」

つれない言葉に文佳は顔をしかめ、取り敢えずと云い添える。

「別に、きらいじゃないよ。隣りにいるのは嫌じゃない」

「じゃあ、好いじゃん。ダメなことばかり数えていたら、疲れちゃう。好いことのほうが絶対、いっぱいあるのにさ」

「それこそダメよ、このコ。悪いことばかり数え上げるのが趣味なんだから」

「ちょっと、あやせ!」

「あやせちゃん、さすがにそれはひどい…」

天使の穂波が笑う。
悪魔のあやせが舌打ちをする。

「この根暗ちゃん、好く聞きなさいよ。男なんて、ただ置いておくだけでなんの役に立つんだか。張り子の犬じゃないのよ」

「根暗で悪かったわね」

「あ、それは肯定しちゃうんだ、フミちゃん。…それにしてもなんだか、突っ込みドコロ満載の、おねいさまのお言葉だね」

「あんたたちに比べれば、誰でもおねいさまよ。このお子様コンビ」

あやせの台詞に、文佳と穂波は顔を見合わせ、こっそり肩を竦めた。
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