その両手の有意義な使い方
第四話 … 幸福のかたち
―ただ隣りに置いておくだけで、なんの役に立つんだか。
あやせの感覚と、文佳の考えは全く違う。
さやさやとさやぐ木の影。
春が終わり、夏の気配。梅雨には間がある、奇跡のように心地好い時期に、学内のちびた芝生に寝転ぶ。
傍らには、高遠。
ほんの少し手を伸ばせば、アイロンのかかっていない、くしゃくしゃのシャツの裾に触れられる。
触れはしなくても。
文佳の視線に気付けば、高遠は目尻にしわを寄せて笑ってくれる。
それで、充分。
文佳はただ、高遠に傍にいて欲しいだけ。
それ以上のことは希まない。むしろ――嫌悪する。
いまを壊す全ては、好いものでも悪いものでも欲しくない。
その希みの、なにが悪いのだろう。
「フミさん?」
「…こう、空を見ているとさ」
少しだけ、身を寄せて高遠が文佳の顔を覗き込む。
控え目な影が、広がったスカートの裾にかかる。
そこまで。
いつの間にか、高遠も心得たように一定の距離を文佳から取るようになっていた。
必要以上に近寄らない。触れない。
そういう紳士的なふるまいには好感が持てる。
恭しく、守られているみたいだ。
「見ていると?」
「…このまま、全部終わっちゃえ、って思わない?」
あやせの感覚と、文佳の考えは全く違う。
さやさやとさやぐ木の影。
春が終わり、夏の気配。梅雨には間がある、奇跡のように心地好い時期に、学内のちびた芝生に寝転ぶ。
傍らには、高遠。
ほんの少し手を伸ばせば、アイロンのかかっていない、くしゃくしゃのシャツの裾に触れられる。
触れはしなくても。
文佳の視線に気付けば、高遠は目尻にしわを寄せて笑ってくれる。
それで、充分。
文佳はただ、高遠に傍にいて欲しいだけ。
それ以上のことは希まない。むしろ――嫌悪する。
いまを壊す全ては、好いものでも悪いものでも欲しくない。
その希みの、なにが悪いのだろう。
「フミさん?」
「…こう、空を見ているとさ」
少しだけ、身を寄せて高遠が文佳の顔を覗き込む。
控え目な影が、広がったスカートの裾にかかる。
そこまで。
いつの間にか、高遠も心得たように一定の距離を文佳から取るようになっていた。
必要以上に近寄らない。触れない。
そういう紳士的なふるまいには好感が持てる。
恭しく、守られているみたいだ。
「見ていると?」
「…このまま、全部終わっちゃえ、って思わない?」