あなたの肩が触れるまで
お母さんはお茶を入れた湯飲みを3個持ってき、机の上に並べた。


「こんな娘ですけど…見捨てないでやって下さいねぇ?」
「いえいえ!
学力は普通のようだし…
きっと上がりますよ!」


なんだか結婚前の挨拶みたい……

そう思いながら話を聞いていると、お母さんから正座をしていた膝を叩かれた。


「ほら!南波もよろしくお願いしますってしなさい!」
「だーかーら…
何でこんな風になってるのかも分かんないし…
第一、この人誰なの?」


私は一気に思っていた事が溢れ出したように言った。


「あ…言うの忘れてた。」
「へ?」
「この人は、南波の家庭教師をしてくれる、
大学生の叶原 映史さんよ!」
「………家庭…教師?」
「南波さん!
よろしくお願いします!」


そう言って思いっきり作り笑顔に見える不愉快な笑顔を私に向ける。


「ちょーっと待ったあぁ!
家庭教師なんて聞いてないよ!?
なんで黙ってたのよお母さん!」
「あら…
ほ…ほらっ…先に言っちゃうと南波は、
嫌だって聞かないでしょ。」


急に思いついたようにキョドキョドしながら話すお母さんにため息をつきながら、正座しなおした。


「ま!
決まったものは決まったものよ?
はい、頑張ろー!」
「頑張ろー!」


お母さんと家庭教師は、
“頑張ろー!”と喝を入れた後、湯飲みのお茶をずずっと飲んだ。


「私の意見も聞いてよね……」


家庭教師なら塾が良かった……
と思いながら、ため息をついて私も湯飲みのお茶を啜った。


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