遠い窓
「親父。」

握りしめた手のひらの色が変わってきたころ、ずっと黙っていた男が口を開いた。

「今日は食事だけの約束だろ?……飯、不味くなんだろうが。」

張りつめていた糸がぷつりと切れたようだった。
学人さんを見やると、余裕そうにこちらに笑みを向けてきた。

「そうだったな。悠くん、取り乱してすまなかったね……。お腹は減ってないかい?」

石田さんは声にならない声を漏らすと、またふにゃりと僕に笑顔を見せた。

ああ、きっと僕にはもう選択肢はないんだ。
そう思った。

「い、石田さん……。」

ダメだ、泣いちゃ、ダメだ。

「悠っ、どうしたの?」

「こ、今回のお話は僕の母にはとても勿体ないお話です!でも、二人で出した結論なら、僕はもう、何も言いません。……母を、よろしくお願いします。」

テーブルに敷かれた真っ白なクロスに、ぽたぽたと斑点が浮かび上がった。
それをごまかすように、僕は立ち上がって頭を下げた。

これで良かったんだ。

「悠……。」

母さんの声が震えていた。
< 4 / 7 >

この作品をシェア

pagetop