おっさんと女子高生
「え」

夕方にケーキ屋の箱を引っ提げて帰宅。彼女が部屋にいて、俺の左手をみて固まった。

なんだ?と思ったが、とりあえずケーキを置こうとちゃぶ台の方を見ると、俺の持っているものとまったく同じ箱がある。

「え」

俺もそれを見て固まった。

「おっさん、なんか良いことあった?」
「嬢ちゃんこそ…」

二人とも同じ日にケーキを買ってくるなんて、おそらく宝くじで一等が当たる確率と同じようなものだ。

なんせ俺も彼女も甘い物は好きじゃなく、ケーキは誕生日に買うか買わないかくらいだなんて話しもしたことがある。

「お前さん、まさか誕生日か」
「おっさんも?」

たぶん、彼女も同じようなことを考えていたんだろう。

「おっさん、まさかワンホール買った?」
「そのまさかだ」
「ねぇ、なんで買ってきたの」
「気まぐれだよ」

久しぶりに誰かに祝ってもらおうかな、なんて思ったんだけどさ。まぁ、歳をとるのを素直に喜べない年齢になってしまったのだけれど。

「ショートケーキ?」
「あぁ」
「よかった。チョコだったら死ぬとこだった」
「ショートケーキひとりワンホールか…」

めでたい日のはずなのに、彼女も俺もケーキを汚物でも見るような目で見る。
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