おっさんと女子高生
「いってぇ!!」
猫の爪が鼻の皮膚を抉る。反射的に猫をはたいてしまい、スルリと彼女の腕を抜け出した。雨空の下を駆けてゆく猫。涙目で見たのはその猫の後ろ姿だった。
「おっさんのばか!」
「猫が悪い!見てみろよ俺の鼻!ウチのペットはお前さんで十分だ」
鼻を押さえていた手を外して彼女の顔にズイと近づけると、あからさまに顔を歪めた。
「血がでてる」
「やはりか」
手を見ると血がうっすらついている。それを見てジワジワと痛みが湧き出てくる。
「消毒したほうがいいよ」
「そんなもんねぇよ。唾でも付けとくか」
「私がつけてあげる」
胸ぐらを掴まれて、グイッと彼女の方へ引き寄せられる。目の前にはあーんと口を開けた彼女。
くわれる。驚いて目をつぶった。すると鼻にぬめっとした熱いものがあたる。それは暫く鼻の傷を這った後、生々しい水音をたてて離れた。
目の前には雨に濡れた彼女。髪の毛の先から水がたれ、首筋を伝い胸元に落ちた。
あーあ、これってヤバい状況なんじゃないか?ご近所さんに見つかったら通報されかねないよ。女に免疫無いのってこういう時に困るよな。
金縛りにあったように体が動かず、というより動かす気になれず、ぼんやりと突っ立っていた。