おっさんと女子高生
「えーと、俺さ、あした帰らねぇんだよ」
片手で頭をポリポリ掻きながら気まずそうに報告。彼女は口に詰めこんだクッキーをもそもそと噛みながら、雑誌から目を離さずにふーんと気の無い返事をした。
仕事がら一日中家を開ける事が多いものだから、彼女も“いつもの仕事”だと察した上でその態度なのだろう。だが…。
「仕事じゃなくて実家に帰ろうと思う」
目玉だけ動かしてチラッと彼女の様子をうかがった。先ほどと何ら変わるところがない。すました顔で雑誌を読んでいる。
何だ、こんなもんか。なぜだかがっかりして、彼女の近くにあったクッキーの箱を拾い上げてそのなかから一枚取り出す。
クッキーを口にほうり込み甘味が広がった瞬間、あ、と思い今度は顔ごと彼女の方へ向けた。
彼女の口が動いてない。さっきまでもそもそしてたはずだ。ただ単にクッキーをのみこんだからか。否か。
感情の起伏が無いに近い彼女の心中を覗くのは難しいと、最近つくづくそう思う。淡白というか、甘えたがらないというか、俺を頼りつつも壁は取り除かないというか…。
最初よりずいぶんと言いたい事をいうようになったなとは思う。だけどな、なんかまだ足りない。
新しく飼った犬が、名前を呼んだら来てくれるようになったけど、お手はしてくれない。
そんな感じのモヤモヤがある。