浮気、始めました。
放課後。
やっぱり翔太は迎えに来る。
「…帰るか」
「うんっ」
少し曇っていた。
そのせいか、ちょっと気分もどんよりしていた。
沈黙…。
並ぶ二人の間に微妙な距離。
肩が触れそうになると離れる。
もどかしい。
「っあ…雨…」
ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
「ほんとだ。梨沙、傘持ってるか?」
「ううん、持ってない…」
「じゃ、俺のに入れよ。風邪引くから」
「あ…ありがとう」
近い。
近い近い近い近い近い近い。
右上に翔太の顔がある。
肩はもう触れてる。
ブレザー越しに、翔太の体温さえ伝わる気がした。
わ…
あたしドキドキしてる。
よかった…
まだ、翔太のこと好きだよね。
ドキドキするってことは、好きなんだよね?
「…着いたな。今日はもう外出るなよ」
親みたいだ。
「でもあたしこのあと塾なんだよ」
「そっか。風邪ひかないようにな」
「うん!ありがとっ。じゃね!」
玄関の前の階段を小走りで登ってドアを開けようとしたとき、
翔太に呼び止められた。
「…なあ、梨沙」
「…ん?」
きょとんとして振り返ると、
黒い澄んだ瞳がこっちをまっすぐ見ていた。
「…いや。何でもない。じゃあな」
「?うん。翔太も風邪ひかないようにね!」
ニコッと笑って、すぐに家に入った。
呼び止められたのが少し気になるけど…
塾の宿題やらなきゃなんだよね。
靴を脱ぎ捨てて急いでタオルで濡れたところを拭いた。