浮気、始めました。
あたしが通うのは個人塾。
だから、普通のお家でおばさんが教えてくれる。
きれいに掃除された玄関に立って、
そっとインターホンを押した。
扉はすぐに開かれて、ふっくらした
優しそうなおばさんが迎えてくれた。
「いらっしゃい!奥で待っていてね」
おじゃまします、と小さく言って
恐る恐る中に入った。
新築のうちとは違う、木造の…そう、おばあちゃんの家みたいな匂いがした。
言われた部屋に入ると、長机が置かれた
少し狭めの部屋だった。
長机の端では、同じくらいの歳の男の子が一人、
さらにその後ろの長机に女の子が一人、
黙々と勉強していた。
あたしの気配に気づいたのか、
男の子が顔を上げてこっちを見てきた。
自然と目が合う。
髪も目もきれいな茶色だった。
雰囲気が爽やかで髪も目も真っ黒な翔太とは何もかもが違った。
翔太はもっと色が白くて、細くて、
髪が癖で少しはねてるのが可愛くて…
相手は何もせずにふいっとまた机に向かって勉強を再開した。
目を逸らされた瞬間、はっと我に返った。
ああ、また私…翔太のこと…
バカだな、と心の中で自分を笑いながら
女の子の少し離れた場所に座った。