浮気、始めました。
席に座るとすぐに先生がやって来て塾の説明をしてくれた。
「見ての通りの個人塾よ。
この家には私とペットしかいないの。
旦那は少し前に亡くなったから」
亡くなったから、と言った瞬間、
先生の顔を見ていられないほど心が締め付けられ、
なんだか申し訳なくなった。
わたしが訊いたわけでもないのに、
申し訳なくなるなんて変だ。
「ペットは犬を飼っていてね。
ダックスフンドでうにっていうの」
「うに…ですか?」
びっくりして聞き返してしまった。
海産物を名前にする飼い主を初めて見た。
「そう!オスだからうにくんって呼んでね。
今は奥にいると思うけれど。ふふふ」
そう言って先生は楽しそうに笑った。
とても感じのいい先生で良かった、
勉強頑張れそう。
「いま梨沙ちゃんの他に二人いるけど、
通ってるのは全部で5人よ。
あとふたり、また後日会えると思うから
ここの二人には後で挨拶しておいてね。
それじゃあ、お勉強始めましょう」
先生が絶えずにこやかに微笑むので、
緊張がとけてわたしも笑って
「はい」と言った。
さっきの男の子の視線を感じたけど、
そっちを見たらまた目が合いそうだからやめておいた。