悪魔の熱情リブレット
序幕


 午後の六時を過ぎてもまだまだ明るい夏のヨーロッパ。

なかなか暗くならないため、人々は夜遅くまで外出を楽しむ。

今から出掛けようとしている老婆もそんな人々の一人だ。

彼女は上品で落ち着いた色合いのドレスに着替えると、居間に置いておいた一枚のパンフレットに目をやった。

その紙は劇作家をしている孫からもらったものだ。

自分の書いた新作オペラが行われるため、是非見に来てほしいと誘ってくれた。

これから教会にその孫の新作を見に行くのだ。

老婆はあまりパンフレットを読んでいないため内容を知らない。

読まずとも孫の誘いとあれば絶対に行くからいいのだ。

それに、読んでしまってはどんな展開になるかわからないドキドキ感を味わえなくなる。

老婆はパンフレットをハンドバッグに入れると居間から出ようとした。

「あら…?」

彼女はあることに気づき、額に入れて壁にかけてある地図に近寄った。

その地図は古いもので、額から出したらボロボロに崩れてしまいそうだ。

「少し曲がってるわ」

微妙なずれを直し腕時計を見る。

「あらやだ。急がなきゃ」


老婆は早足で玄関から外へと出て行った。

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