悪魔の熱情リブレット

「わ、私のほっぺはこんなに赤くない~!」

意地悪げに笑うアンドラスに反論するも、すでに顔が赤いティアナ。

説得力は皆無だ。

「ねえ、ねえ、あのね」

気を取り直してティアナはアンドラスの服の裾を軽く引っ張った。

これは彼女がおねだりをする時の合図、というよりも癖だ。

それをちゃんと理解している白い悪魔は問い掛ける。

「何の企みかな?ティアナ」

「あの…外で絵を描いてきて良い?」

「外?」

「うん。教会とか時計塔とか民家とか…シャッテンブルクの町の風景を描きたいの」

特に否定する理由もなかったので彼は「行っておいで」と柔らかい声で許可を出した。

嬉しそうに画材を持って外へ飛び出すティアナ。

彼女はまず広場に向かった。

「ここから…ママとパパと一緒にからくり人形見たな…」

広場から見える時計塔のからくり時計。

ティアナは広場の真ん中に座り込むと、時計塔を描くものとして定めた。

それから数時間、少女は真剣な眼差しで慣れない油絵道具と格闘しながら風景画に挑戦したのだった。




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