悪魔の熱情リブレット
栗色の綺麗な髪に宝石のような美しさを秘めた青い瞳。
自分を不安げに見つめるその表情は、聖母の慈愛にも似た優しさを垣間見せる。
「…天使…?」
馬鹿げたことを口走っていると自分で理解している。
しかし、突然目の前にいた少女と、その少女の美しさを表現する適当な言葉が他に見当たらなかった。
「天使」と言われて目を丸くする少女。
ライナルトが彼女に触れようと、無意識に手を伸ばした時だった。
白き腕(カイナ)が二人の男女を引き裂いた。
「あっ!」
一瞬にして白い悪魔に連れ去られた少女。
もうライナルトの前には誰もいない。
白い悪魔も、天使の如き少女も。
ただ、始めから何もなかったかのように風が吹き抜けるだけ。
「彼女は…一体…」
そして思い出す。
悪魔の手が少女を捕らえた時に見えた、金色の瞳。
そこから感じとった、刺し殺すような狂気と激しい嫉妬。
「悪魔、か…」
ライナルトは厳しい眼差しで空を仰いだ。
悪魔に捕まった少女は無事だろうか。
生きているのならば、助けに行きたい。
けれど、わかっている。
自分はまだまだ弱い。