悪魔の熱情リブレット
「おばあちゃん!こっちこっち!」
教会に着くと孫娘のリーゼが老婆を待っていた。
「前の方の席、取っておいたよ。ほら、あそこ」
いつも祭壇がある場所には舞台が作られており、リーゼはその舞台の近くの椅子を示した。
「ありがとう」
「いえいえ~。でも来てくれて良かった。おじいちゃんが亡くなってからふさぎ込んでたから、来るかどうか心配で…」
老婆は数ヶ月前に夫を亡くしたばかりだった。
そのため現在一人で住んでいる彼女に、リーゼは何かと声をかけ元気付けようとしているのだ。
「本当にありがとうね。でも私は大丈夫よ。今日は楽しむわ」
笑顔の祖母に少し安心したリーゼは彼女を観客席に座らせるとスタッフに挨拶すると言い行ってしまった。
リーゼは今、すごく緊張していることだろう。
役を演じるわけではないが、オペラが終了した後の観客の反応が恐ろしい。
駄作だと言われてしまったら劇作家としてのプライドが傷つく。
老婆もそんなリーゼの心境を悟っていたため余計な心配をかけないよう笑顔を見せたのだ。
本当はまだ暗い気持ちが心を蝕んでいるが、今夜はオペラを楽しむと決めた。
彼女は時間を確認し、始まるのを待った。