悪魔の熱情リブレット
この発言にティアナは呆然とした。
「お、お嫁、さん…?」
色恋沙汰には疎いライナルトの一世一代の告白。
「嫌なら今すぐ断ってくれて構わない。でも、もし嫌じゃなかったら…俺は君をさらっていく」
アンドラスが愛しい。
ティアナの中でそれは変わらない。
けれど、思ってしまった。
――彼なら、おばあちゃんになっても愛してくれる…?
アンドラスに今なお聞けずにいる不安。
ライナルトならば共に時を歩み、共に歳をとり、共に死ねる。
同じ人間なら、美しさを失う日が来てもお互いを比較したりしない。
ティアナはそっとライナルトの手を握った。
「…捨てないでくれますか…?」
縋るような眼差し。
ライナルトは綺麗に微笑んだ。
「この命尽き果てても、君だけを愛すると誓うよ」
そして彼はティアナの手に優しく口づけた。
(アンドラスに蔑まれて捨てられるよりも、自分から離れた方が…)
心の傷が浅くてすむ。
ずるいことだとは百も承知。
しかし、人間の心は脆いのだ。
よりどころを求めていたティアナは彼の愛に縋った。
――好きよ。アンドラス…
ライナルトの愛馬に乗せてもらいながら思う。
――だから、ごめんなさい…
許してほしいなどとは思わない。
むしろ、恨まれた方がいい。
そして、忘れてくれたなら…。
――自分勝手で最低な私のことを…