悪魔の熱情リブレット
「そうか…。ありがとう」
自然と出た感謝の言葉。
少しだけ心が穏やかになった。
「じゃあね、シルヴェスター」
「行ってくる」でもなければ、「さよなら」でもない。
曖昧な挨拶をしてアンドラスが静かに立ち去ろうとした時、シルヴェスターは忘れ物を思い出して呼び止めた。
「主よ、仮面をお忘れです」
サリエルが届けてくれたカラスの仮面を差し出す。
「…ああ、もう必要ないかもね。君にあげる」
「わかりました」
大事に仮面を抱えながら一礼する。
それを見届けて今度こそ、白い悪魔は出ていった。
(主よ、またいつか…)
会いたくて。
しかし、忠実な僕(シモベ)は感情を押し殺し、黙って主を見送った。
天使ライナルトは教会の上空を飛びながら、アンドラスのことを待っていた。
翼を優雅に動かしながらシャッテンブルクの町を見下ろす。
(どうしてだ…?この町…見覚えがあるような…)
彼は不可思議なこの感覚を否定するように首を振った。
(きっと勘違いだろう!うん!)
そこへアンドラスが戻ってきた。