悪魔の熱情リブレット
深夜のシャッテンブルクに足音が響く。
町は静まりかえり、耳につくのは教会の中を歩く彼の靴音だけだ。
シルヴェスターはその微かな音を聞きながら心臓を高鳴らせた。
「主が戻られた…」
次の瞬間、小部屋の扉が開かれる。
「久しぶりだね。シルヴェスター」
以前と変わらない口調。
「どうしたのですか?天使となられた方が悪魔と戯れてはいけません」
悪魔だった時と変わらず、白い衣装を着てやって来たアンドラス。
違いといえば天使の羽が生えていることと、信仰の証しとして首にかけている大きな十字架だけだろう。
「関係ないさ。僕はこれから賭けをするんだ。成功すればティアナは僕のものになる」
「…失敗したら…?」
恐る恐る尋ねるシルヴェスターに、彼は自嘲気味に答えた。
「失敗したら、僕の命が消えるだけ…」
冗談だと言って欲しかった。
しかしアンドラスは自分の言葉を否定せず、ティアナの遺品を物色し始めた。
「あれはどこに置いた?」
ティアナが生前に使っていた手鏡やくし。
着ていた服や靴。
大好きだった本の数々。