悪魔の熱情リブレット
「そう褒めるな…。断りづらくなるではないか」
「じゃあ断らないで。よろしくね」
勝手に話を進めるアンドラス。
その間にシルヴェスターはティアナが食べやすいように肉類をナイフで切っていた。
ティアナは瞳を輝かせながら、それを黙って見つめている。
「わかった~。また来るよアンドラス!」
ヴォラクは承諾し食堂から出て行こうとしたが突然振り返った。
「あっと!言い忘れた~!その料理、食べる時には要注意ね。どれか一品に大量の毒が入ってるから~!じゃあね~!」
天使の顔した悪魔は今度こそ笑顔で出て行った。
残された一同は少しの間、沈黙してヴォラクが置いていった料理を見つめていた。
幸運なことにまだ誰も口つけていない。
「悪魔は毒なんかじゃ死なないが…」
オセーが青ざめたティアナをちらりと見る。
「頼む相手を間違えましたかね…」
ヴォラクは人間の不幸が好きな悪魔だ。
それも、至福を味わったと思った次の瞬間、絶望の奈落に突き落とすのが大好きだ。
「シルヴェスター、毒味をよろしく」
平然と命令したアンドラス。
シルヴェスターは頷きながら本気で思った。
(早く料理を覚えないと…。ティアナ様のために…)
とりあえず、ヴォラクから気軽に食べ物をもらってはいけないと学んだティアナだった。