悪魔の熱情リブレット

言うが早いか、アンドラスの忠実な部下は教会から出ていった。

残された白い悪魔は氷の奥に封じ込まれた少女の亡骸を見つめる。

「ティアナ…君も堕ちてよ…」

今を生きているアウレリアが記憶を取り戻してくれたなら…。

「アンドラス!追放って!?貴方は悪魔に!?」

勢い良く扉が開き、現れたのは天使ライナルトだった。

兜を被っていて表情は読み取れないが、慌てているのが丸わかりだ。

「何しに来たの?いい子の天使様?」

馬鹿にしたような言い方に、ライナルトはむっとした。

「堕天だなんて、何考えてるんですか!?」

「もう僕のことはほっときなよ。天使とか悪魔とか、今の僕にはどうでもいいのさ。誰にも邪魔されずに、ただティアナを愛したい。それだけ」

氷の棺を愛おしげに撫でる彼に、ライナルトは近づいた。

興味本位で棺を覗き込む。

そこにいた少女は――。





――捨てないでくれますか…?




必死な瞳が脳裏に甦る。

(そう…。彼女の瞳は澄み渡った空のように青くて輝いていて…)

ずっと笑顔を見ていたかった。

自然と涙が零れる。


――俺の「天使」…


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