悪魔の熱情リブレット
ティアナは至近距離でまじまじと彼の顔を見た。
しかし、見えない。
「目、見えない…」
「は?」
「アンドラスの目、見えないの」
こんな間近に来ても彼の前髪が邪魔をする。
これで本当にアンドラスは周りが見えているのだろうか。
「ああ、僕の目ね。見たいの?」
興味津々で首を縦に振る。
「見たら君は僕に破壊されちゃうよ?」
子供相手に彼は色気を含んだかすれ声で囁く。
「それでもいいなら、どうぞ。ティアナちゃん」
少女の茶色い髪を優しく手で梳きながら喉で笑う。
ティアナはそんな悪魔を見つめ言った。
「見てもいい?」
「ダーメ。壊れちゃうよ、君が」
彼は近くのテーブルに置いてあったカラスの仮面を手に取った。
「人間は脆いんだ。まあ、僕が言うのもどうかと思うけど、命は大切にね」
そして仮面をティアナに被せる。
「世の中には見なくていいものもいっぱいあるんだよ。僕の目なんか、その最たるものかもしれない」
ティアナは仮面を外そうとしたがアンドラスが押さえているため顔から離れなかった。
仮面をつけていると視界が狭まり、周りがよく見えない。