悪魔の熱情リブレット
第二十幕
静寂が支配する天界の片隅で、天使長ミカエルは自分がした行いが正しかったのかどうか自問していた。
「…これで良かったのだろうか…?」
知らず、神経質そうな表情になる。
「アナタにも悩み事があるのですね」
「ガブリエル…」
振り返ると天の門番が立っていた。
「あの少女を眠らせたこと…後悔してるのですか?」
ライナルトと共にシャッテンブルクへやって来た銀の天使。
それは何を隠そう天使長ミカエルであった。
彼は神の命令を忠実に実行した。
命令――。
それは少女の恋を叶えること。
「わからない。ただ、心にひっかかるのだ」
――なぜ神は私にそのような命令を…?
「ワタクシ達の父はあなたに知ってもらいたかったのでは?『愛』というものを…」
少女のために潔く堕天したライナルトと、少女を愛するために何度もぶつかってきたアンドラス。
「愛、か…」
彼らのような熱くて深い愛をミカエルは知らない。
ガブリエルの言葉を聞き、彼はゆっくりと目を閉じた。
「天使は人を愛する。しかし…私は、本当の愛を知らなかったのかもしれない」
アンドラスの激しい愛情。
ライナルトの包み込むような慈愛。
「少女がいなければ愛は存在しなかった。…神は、私に見せたいのだろうか…?何百年もの深い愛情が交差する瞬間を」
「では転生したアンドラスの記憶も戻してあげるのですか?」
「そうなるのだろうな。全く…私もとんだお節介天使だ」
そう言いつつも、ミカエルは穏やかに微笑んだ。
神と天使の謀(はかりごと)。
天の秘密は歴史で語られることはなかった。