悪魔の熱情リブレット

音を立て地に倒れる十字架。

今まで十字架があったところには、大人二人が通れる程度の赤黒い穴がぽっかりと空いていた。

「この穴の向こうが地獄だよ。さあ、行こうか、ティアナ」

「え!?」

「行こう」と手を掴まれ引っ張られる。

「いや!行きたくない!」

まがまがしい不気味な穴を見つめ激しく抵抗する。

「何で?この先がとっておきの場所なんだよ?」

その時、穴の中から不協和音のような叫びが聞こえた。

唸るような、泣いているような、笑っているような、なんとも表現し難い響き。

「な、に…?」

「魂の悲鳴さ。地獄に捕われた哀れな人間のコーラス。悪魔が好む歌といったらこれかな」

少女の背中に鳥肌が立つ。

「歌を歌いたいんでしょ?彼らと一緒に地獄で歌いなよ。君はどんな声で歌ってくれるんだろうね?」

アンドラスは剣を仕舞い、暴れるティアナを抱きかかえ穴の上空に連れてきた。

「ヤダヤダー!」

「ん?地獄はお気に召さないかい?せっかくティアナのために地獄の穴を開いてあげたのに…。僕の親切な行為は骨折り損かぁ」

わざとらしく大袈裟に溜息を吐くアンドラス。

真に受けたティアナは小さな声で謝った。

「ごめんなさい…」

「ふうん、罪の意識はあるんだね。なら、一つだけ僕の言うこと聞いてくれる?そしたら、ちゃらにしてあげるよ」


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