悪魔の熱情リブレット
「うわあ~!高~い!」
おそらくティアナは高い屋根の上から見える周りの景色に感嘆の声を上げたのだろう。
確かに眺めは最高だった。
もともと山の上にある教会だから尚更だ。
ティアナには民家の赤い屋根が玩具のように、遠くに密集する森は緑色の絨毯に見えたことだろう。
「ティアナ、歌を歌ってあげる」
「アンドラスが?」
疑わしげな表情のティアナ。
「そうだよ。僕がむかーし歌ってた歌」
「ききたい!」
少女の純粋な青い瞳が輝く。
「では」
そして悪魔は歌った。
天使だった頃、天上の神を讃美していた清らかな歌を。
うっとりと聴き惚れていたティアナは、いつの間にか眠ってしまった。
そんな彼女に気づき歌をやめる。
アンドラスはそっと前髪をずらし、安らかに眠る少女を見つめた。
その金色の瞳で。
安寧の時を過ごす少女と悪魔。
そんな彼らを遠くから見つめる姿があった。
「アンドラスの歌ですか…。何千年ぶりです?」
紫色の悪魔が興味深そうに微笑んだ。