悪魔の熱情リブレット
ティアナは怖ず怖ずと彼の腰に抱きついた。
思えば、ティアナがアンドラスに自ら抱きつくのはこれが初めてかもしれない。
半ば強制的にと言えなくはないが。
「良くできました」
まるでペットの愛玩犬を撫でるようにアンドラスは彼女の髪をくしゃくしゃ掻き回した。
文句も言わず撫で回されていると、聞き覚えのない声が降ってきた。
「ここに住んでらしたのですか。オセーから聞いてはいましたが、随分とお気に入りのようですね」
音もなく家の中に忽然と姿を現した紫色の青年。
何が紫色かというと、彼の長い髪と天の使いが着るような神々しい衣服だ。
「サリエル!!」
大きく目を見開くアンドラスとシルヴェスター。
サリエルと呼ばれた青年は穏やかな口調で挨拶した。
「こんにちは。アンドラスにシルヴェスター。それから、ティアナ」
「何で私の名前知ってるの?」
初対面のサリエルに首を傾げるティアナ。
「オセーとヴォラクから貴女についてお聞きしました。アンドラスが人間の少女ティアナを育てていると…。非常に興味深いですね。あの破壊の天使が命を育てるなんて。どういう心境の変化です?」
アンドラスはティアナを抱きしめてぶっきらぼうに答えた。