悪魔の熱情リブレット
第一幕
昔々、欧州にある今は廃墟となった町シャッテンブルクで女の子が生まれた。
女の子は家族から誕生を祝福され、とても可愛がられた。
しかし彼女の平穏は長くは続かなかった。
「今日は町に旅芸人が来ているわ。見に行きましょうか」
母に連れられ町の広場に赴く少女。
歩き辛そうに石畳の歩道を進む。
この時、彼女は六歳になったばかりだった。
広場の真ん中でこの地方の民族音楽や踊りを披露する流浪の芸人達。
少女が物珍しげに見つめていると、芸人達が乗ってきたほろ馬車の近くに座っている老婆と目が合った。
するとその老婆は突然立ち上がり、少女に向かって駆け寄ってきた。
「お前さんお前さん!」
老婆の呼びかけに少女は恐くなり母の後ろに隠れる。
「何ですか?うちの子に何か?」
少女の母が代わりに会話をするも、老婆は聞いていないようだった。
「お前さんは悪魔の子だよ」
瞳を大きく見開き囁く。
「人に死をもたらすのさ」
しわがれた声が辺りの喧騒よりもはっきり聞こえる。
「この町にいる奴らは全員死ぬんだ!この子のせいで!」
老婆が叫んだ瞬間、とても喧しかった広場は静寂に支配された。
「この子がお前達全員を殺す~!!」
老婆の不気味な笑い声だけが響き渡った。
その老婆は占い女として知られていた。
そのため少女に対する町の人々の態度がこの日を境に極端に変わってしまった。
「占い女の言葉には信憑性があるんだ!殺される前に殺さないと町の住人が死ぬぞ!?」
芸人達が去っても置いていかれた不安の種は消えることを知らない。
「うちの子が人を殺すなんて、そんなこと…」
「あるわけないと断言できますか?奥さん」
少女の母は町の住人から自分の子を守ろうと必死だった。
しかし、事件は起こってしまった。