悪魔の熱情リブレット
たまに信仰深い人間が悪魔に恋をして死んでから地獄に堕とされることもあるが、自分の愛した悪魔がいるところに堕ちていけるのだからあまり罰にはなっていないようだ。
アンドラスもそのことは知っている。
確かにティアナが神を讃美しても何も問題ない。
拒否したのは自分が教会が嫌いだからに他ならない。
しかしそんなことよりも、彼は別のことで笑い出した。
「愛する?僕が愛しちゃうの?ティアナを?」
食堂に通じる階段を上がりながら自問する。
ひとしきり笑うとアンドラスはサリエルに言った。
「まあ、いいや。サリエルの好きにさせてあげるよ。ただし、絶対にこの町からティアナを連れ出さないでね」
条件はあるものの、アンドラスの承諾にサリエルは満面の笑みを浮かべた。
そして数週間後。
山の上の教会から、ティアナが歌う讃美歌の調べが風にのって町に運ばれてきた。
悪魔は人間よりも聴覚が優れているため、少女の歌声もアンドラスの耳には届く。
彼は民家の窓から教会を眺めた。
「何だ。意外と可愛い声じゃん」
子供らしい、愛らしい声。
「サリエルに調教されてるのはむかつくけどね」
破壊の化身アンドラス。
芽生え始めたのは小さな独占欲だった。