悪魔の熱情リブレット
一時間ほどしてティアナは席を立った。
涙で赤くなった目を擦り、何でもない顔をして歩く。
家に戻ってまで暗い表情をしていると、アンドラスに訳を話せと問い詰められる可能性があるからだ。
教会の扉から外へ出る。
「あちゃー」
一歩進んで引き返す。
祈りに集中し過ぎて気づかなかった。
いつの間にか大雨が降っていたのだ。
まだ明るい時刻だが、空はどんよりとしている。
「やっぱり降ってきちゃった…」
雨粒を遮るものは何も持っていない。
仕方ないと覚悟を決めてティアナは早足で雨の中を駆けて行った。
ずぶ濡れになりながら。
当然帰ってアンドラスに馬鹿にされ、シルヴェスターに無言で責められたのは言うまでもない。
しかしこの時は皆、軽く考えていた。
土砂降りの雨の恐ろしさを。