悪魔の熱情リブレット
「おい、ティアナ!しっかりしなよ!ティアナ!」
――ティアナ!
――ティアナ…
『ティアナ…』
夢の中で、少女は過ぎ去った思い出を見ていた。
自分の名を呼ぶ優しい母。
抱き上げてくれるたくましい父。
(私は、大好きだったの)
普通の子供として幸せに暮らしていたあの頃。
時間が経つにつれて記憶が薄れ、両親の顔がはっきり思い出せなくなっていく。
(ごめんなさい…パパ、ママ)
唐突に両親の姿は消え、暗闇がティアナを支配した。
(え?真っ黒?)
『お前があの時の小娘か』
唸るように鳴り響く声。
(だ、れ…?)
全く聞き覚えのない声に不安になる。
『私はお前に…』
――ティアナ!!
いきなり別の声がティアナの脳内に入ってきた。
(この声は…)
――ティアナ起きて!!
(アンドラス…?)
――ティアナ今すぐ起きるんだ!!
確かにアンドラスの声だ。
ティアナは自分の意識が徐々に覚醒しつつあることに気づき、目を開けようとした。
『邪魔が入ったか…。また来るぞ、ティアナ』
最後に聞こえた恐ろしい囁き。
ティアナが恐怖でまぶたを開けると目の前にはアンドラスの顔があった。