悪魔の熱情リブレット
――アンドラス!!
ティアナが心で叫んだ瞬間。
彼はやって来た。
物凄い速さで一人を殴り飛ばし、もう一人を蹴り上げる。
自由になったティアナは嬉しそうに名を呼んだ。
「アンドラス!」
しかし、よく見ると彼の髪が青い。
「え…?シルシル?」
そう。
ティアナを危機から救ったのは白い悪魔ではなく、その従者シルヴェスターだった。
「お怪我は?」
アンドラスだと思い込んでいたティアナは呆然とするが、すぐに我に返った。
「ないよ!大丈夫!」
三人目を蹴り飛ばすシルヴェスターにはっきり告げる。
「ティアナ…」
すぐ後ろで声がした。
恐かった時に求めた悪魔の声。
「アンドラス…」
彼女は振り向き、悠然と立っている白い悪魔を見つめた。
(どうしたんだろう…?私、助けてくれたのがアンドラスじゃなかったってわかって…残念に思ってる…)
シルヴェスターでも嬉しいはずなのに、このひどくがっかりした感覚が理解できない。
ティアナは痛みに呻く人間達へ近寄っていくアンドラスを、ぼんやりと見ることしかできなかった。
「主よ、どうしますか?このまま自分が処分しても?」
シルヴェスターの質問にアンドラスは低い声で答えた。